浦和地方裁判所熊谷支部 昭和56年(ヨ)84号
債権者
早川早苗
右訴訟代理人弁護士
市川幸永
同
国吉真弘
同
網野猛美
債務者
協同組合行田給食センター
右代表者代表理事
清水孝男
右訴訟代理人弁護士
清水利夫
主文
一 債権者が債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は債権者に対し、昭和五五年一二月二一日以降本案判決確定に至るまで、毎月二六日限り、月額金一七万七、四三八円を支払え。
三 申請費用は債務者の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
主文一、二項同旨
二 申請の趣旨に対する答弁
1 本件仮処分申請を却下する。
2 申請費用は債権者の負担とする。
第二当事者の主張
一 申請の理由
1 債務者は、組合員及び従業員の用に供する共同給食施設の設置及びその運用等を事業目的とする協同組合である。
債権者は、昭和四五年六月頃配達担当として債務者に雇用され、右業務に従事してきた。
2 債務者は、昭和五五年一二月一八日付解雇通告書をもって、債権者を同月二一日付で懲戒解雇する旨の意思表示をなした。
しかしながら、右解雇は次の各事由により無効である。
(一) 債務者は、債権者が昭和五五年一二月四日給食業務委託請負業者竹内重雄(以下「竹内」という)に対し、暴言・暴力行為をなし、職場を放棄したこと、一週間に及び無断欠勤したことを右解雇の理由として挙げているが、債権者が竹内に対し暴言・暴力行為を行ったことはなく、逆に、債権者は竹内から暴行を受けて、全治三週間に及ぶ左前胸部挫傷の傷害を負った。そのため、債権者は、休憩室で安静にしていたのであって、職場を放棄したことはない。
また、債権者は、右傷害の治療のため欠勤したが、一二月五日には、直属の上司である清水部長に対し欠勤する旨電話で伝えており、同月八日には診断書も届けているのであって、無断で欠勤したということはない。
右のとおりであって、本件解雇には、債務者が主張するような解雇理由は存しない。
(二) 債権者と竹内の言い分が鋭く対立し、事実の認定が著しく困難な状況にありながら、債務者は、十分な事実調査も行わず、予断と偏見に基づいて、債権者のみを暴言・暴力行為の実行者と決めつけ、債権者に対し本件解雇処分をなし、一方、竹内に対しては三ケ月分の委託請負管理職手当の支給停止処分をなしたにすぎず、著しく公平を欠いている。
本件解雇には何ら正当な理由もなく、債務者の恣意に基づいてなされたものであって、解雇権の濫用である。
(三) 本件解雇が債務者の主張するように通常解雇であるとしても、予告手当の支払いがなく、労基法二〇条に違反するものである。
(四) 本件解雇は、債権者が労働組合の執行委員であるところから、正当な組合活動を嫌悪する債務者が、これを理由として債権者を職場から放逐する目的でなされた不当労働行為である。
3 本件解雇処分前三ケ月の債権者の平均賃金は月額金一七万七、四三八円で、その支給日は毎月二六日であった。
4 債権者は、債務者から支給される賃金を唯一の収入源としてその生活を支えていたものであり、本件解雇によって唯一の収入の途を奪われ、その生活は窮迫に陥っており、本案判決の確定をまっていては回復できない損害を蒙ることは明白である。
二 申請の理由に対する認否
1 申請の理由1項の事実は認める。
但し、債権者が債務者に雇用されたのは昭和四七年九月四日である。
2 同2項のうち、債務者が昭和五五年一二月一八日付解雇通告書をもって、債権者を同月二一日付で解雇する旨の意思表示をなしたことは認める。但し、右通告書には「懲戒解雇」と表示されているが、右は誤記であって、本件解雇は通常解雇である。
その余は争う。
同3項の事実は認める。
同4項の事実は不知。
三 債務者の主張
債務者が債権者を通常解雇した理由は、次のとおりである。
1 債権者は、昭和五五年一二月四日債務者事業所内で、竹内に対し暴言・暴力行為をなし、その間職場(職務)を放棄し、同月六日から一週間に及び無断欠勤した。
そして、債権者は、右暴言・暴力行為について、上司からの釈明命令、事情聴取に応じようとせず、不当に職務上の指示・命令に従わなかった。
2 右事実は、債務者の就業規則六一条(懲戒解雇に関する規定)の11号(規則を無視し又は職務上の指示命令に不当に従わないとき)、15号(故意又は業務上の怠慢によって災害若しくは傷害その他の事故を発生させ又は事業場に損害を与えたとき)に該当する。
よって、本来であれば、懲戒解雇とすべきところであるが、債権者の将来その他諸般の事情を考慮して、懲戒解雇とせず、労基法二〇条に基づいて通常解雇したものである。
3 なお、債務者は、解雇通告書をもって、債権者に対し、解雇予告手当一ケ月分及び一二月分給料を昭和五五年一二月二三日に支給する旨通知し、右同日から債務者の事務所において現金を用意して支払いの準備をした。
同年一二月二七日債務者の事務所において、債務者は債権者に対し、解雇予告手当の提供をしたが、債権者は受領を拒否した。
右のとおりであって、本件解雇は労基法二〇条に何ら違反するものではなく、一次的には債務者が予め通知して現金の支払準備をした昭和五五年一二月二三日に、二次的には現実の支払提供をした同月二七日に解雇の効力が生じたものである。
四 債務者の主張に対する認否
1 債務者の主張1項の事実は否認する。
2 同2項は争う。
3 同3項のうち、昭和五五年一二月二七日に債務者が債権者に対し、解雇予告手当の提供をしたことは否認する。
第三疎明関係
本件記録中の書証・証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 申請の理由1項の事実は、債権者が債務者に雇用された日時の点を除いて当事者間に争いがない。
(証拠略)によれば、債権者は、昭和四五年六月債務者に雇用されたが、翌四七年二月に退職し、同年九月債務者に再就職したことが一応認められ、これに反する疎明はない。
二 債務者が昭和五五年一二月一八日付解雇通告書をもって、債権者を同月二一日付で解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。
ところが、右解雇通告書(<証拠略>)には、債権者を懲戒解雇する旨記載されているが、右通告書には、解雇予告手当一ケ月分を一二月二三日に支給する旨明示されていること及び(人証略)によれば、右記載は債務者の過誤に基づくものであって、債務者としては、右通告書により通常解雇の意思表示をなしたものと認められる。
三 そこで、右解雇の効力について検討する。
1 (証拠略)を総合すると(但し、右書証の記載及び証人等の供述中、後記措信しない部分を除く)、次の事実が一応認められる。
(一) 昭和四五年一一月竹内は、債務者との間で、給食の配送等の業務委託請負契約を締結し、右業務に従事してきたが、昭和五四年六月一〇日債務者の従業員により結成された総評全国一般労働組合埼玉地方本部行田給食センター支部は、業務委託制度に反対し、竹内と対立するようになった。
右組合の執行委員である債権者も、かねてから、竹内とは円満な関係にはなかった。
(二) 昭和五五年一二月四日午後四時すぎ頃、債務者の工場内食器洗浄室において、債権者は、洗浄機から洗浄されて出てくるコンテナを整理して積み上げる作業に従事していたが、債権者が積み上げたコンテナの一二段目が整然と積み重ねられておらず、台車に乗せて運搬する際にコンテナが落下する危険もあったので、三メートル位離れたところで同じく洗浄作業をしていた竹内が、騒音のなかであったため、大声で、債権者に対し、コンテナをきちんと積み重ねるように注意したところ、債権者は、これに腹を立て、「たまにはこういうこともあるんだ」と言い返したため、口論となり、竹内は、「お前みたいな半端な人間はいない」などと、債権者は、「お前がここの仕事をやってみろ」、「この代車野郎、馬鹿野郎」などと言い合い、債権者は竹内の肩の辺りを突っついたりしたが、同僚が仲裁に入り、その場は一旦治まった。
午後四時一五分頃、竹内は、幼稚園児用の弁当箱の整理をしたが、右作業は洗浄室西側で行うのが都合がよく、また通常はそのように行っていたので、右場所で中里桃子と一緒に主食弁当箱の整理をしていた債権者に対し、通常の作業場所である洗浄室東側に移ってもらうべく、「いつもやっている場所へ移ってくれ」と話したところ、債権者は竹内に対し、「お前ら勝手にやれ」などと言って、竹内に体当りをした。
竹内は、債権者の右言動に立腹し、上司に注意してもらうため、債権者を事務所に連れて行こうとして、債権者の襟の辺りを掴んで洗浄室の外に引っ張り出したところ、ボイラー室前で喧嘩となり、竹内は債権者に対し、両手で同人の両肩を押さえながら左膝で数回同人の胸部に膝蹴りを加えるなどし、一方、債権者は竹内の胸部に数回頭突きをした。
右暴力行為の結果、債権者は約三週間の通院加療を要する左前胸部挫傷の、竹内は約三週間の加療を要する胸部打撲挫傷の傷害をそれぞれ負った。
債務者の清水靖一総務部長(以下「清水部長」という)は、当日、右暴言・暴行事件につき、竹内からは事情聴取したが、債権者は興奮状態にあったため事情聴取することができなかった。
(三) 翌一二月五日正午頃、債権者は清水部長に対し、電話で、「診断の結果、骨にひびが入っているので今日は休ませて欲しい」旨連絡し、同部長はこれを了承した。
(四) 一二月六日債権者宅に見舞いに訪れた内田文夫は、債権者より診断書(<証拠略>)を預り、同月八日清水部長が不在であったため、右診断書を債務者の事務員小巻某に届けた。
(五) 一二月九日債権者の兄小倉実が債務者を訪れた際、右診断書の返還を求めたので、清水部長は同人にこれを返還した。
同日竹内は、債権者との間で暴言・暴行事件を起こしたことを債務者に謝罪し、始末書を提出した。
(六) 債務者は債権者に対し、一二月一二日付書面で、早急に出頭して暴行事件等について釈明するよう通告した。
債権者は、同月一五日債務者に出頭し、一二月五日から同月二六日まで欠勤したい旨の届出書を清水部長に提出した。
同日債権者は、清水部長から竹内との暴言・暴行事件について事情聴取を受けることになったが、債権者の言い分が清水部長が竹内らから聴取していた事実とくい違っている点につき指摘されると、債権者は、自分の言い分に間違いはない旨強く主張し、さらには激昂するに至ったため、事実上、事情聴取をすることができなかった。
清水部長は債権者に対し、始末書を提出するように指示したが、債権者は、自分に非はなく、始末書を提出する必要はないと言って、これを拒否した。
本件暴言・暴行事件後一二月一五日までの間に、債権者より債務者に対し、右事件につき明確な謝罪の意思表示はなされなかった。
(七) 一二月一六日債務者において、清水部長、江森利夫工場長、田島俊夫、吉野登、森隆二各係長が出席して幹部会が開催され、清水部長からの本件暴言・暴行事件に関する経過説明、事情聴取内容の報告等をもとに、暴言・暴行、職場放棄、欠勤等について債権者と竹内に対する評定が行われた。
翌一二月一七日債務者の理事四名により構成される労務委員会は、幹部会の評定をもとに審議し、債権者については通常解雇、竹内については委託請負管理職手当の一二月分より三ケ月の支給停止が相当である旨の決議をなした。
しかして、一二月一八日債務者は本件解雇処分をなしたのであるが、解雇理由は、債権者において、一二月四日竹内と暴言・暴力行為をなし、口論の末午後四時二〇分頃職場を放棄し、ボイラー室前において喧嘩をなしたこと、債務者に謝罪もせず、無断欠勤一週間余に及んだこと、一二月一五日債務者に出頭した際も謝罪の意思なく、事情聴取に対しても激怒するのみで社内秩序を乱したことというものである。
そして、債務者は竹内に対し、一二月一八日付で、委託業務契約一一条に規定する覚書事項を本件暴力行為により軽視したことを理由として、委託請負管理職手当の支給を一二月分より三ケ月停止する旨の処分をなした。
(八) なお、債権者は竹内を告訴し、竹内は昭和五六年一月二七日傷害罪により起訴され、熊本簡易裁判所において、同年五月二一日罰金二万円、執行猶予二年の判決の言渡しを受けた。
一方、債権者については、同年一月二七日不起訴処分となった。
(証拠略)中、右認定に反する部分はたやすく措信することができず、他に右認定を左右すべき疎明はない。
2 債務者は、前記解雇理由として挙げるところは、懲戒解雇事由を定めた(但し、情状により減給又は戒告にとどめることがある旨規定している)債務者の就業規則(成立に争いのない<証拠略>)六一条一一号(規則を無視し又は職務上の指示命令に不当に従わないとき)、一五号(故意又は業務上の怠慢によって災害若しくは傷害その他の事故を発生させ又は事業場に損害を与えたとき)に該当する旨主張する。
まず、無断欠勤の点であるが、就業規則七条には、「病気その他やむを得ない理由により欠勤する場合は、その理由と予定日時を予め届け出なければならない。病気欠勤連続七日以上に及ぶときは医師の診断書を必要とする」旨定められているところ、債権者が債務者に対し、一二月五日から同月二六日まで欠勤したい旨の届出書を提出したのは一二月一五日であるから、届出期限に関する限り、債権者のした欠勤届は右規定に違反していることになる。
しかしながら、就業規則六一条二号には、「従業員が正当な理由なく、一四日以上無断欠勤した場合に懲戒解雇できる」旨規定されているところ、債権者の欠勤は右期間に達しておらず、しかも右欠勤は前記傷害のためであり、診断書も一旦は債務者に届けられているのであるから、債権者の本件欠勤は解雇理由とはなり得ないものというべきである。
ところで、前記認定のとおり、債権者は、竹内よりコンテナの積み方を注意されたことに立腹し、反発的な態度をとったことから、両名間で口論となって互いに侮辱的な暴言を発し合い、同僚の仲裁により一旦は治まったものの、その数分後には、竹内が債権者に対し作業場所の移動を促したところ、債権者がこれに反発したため、喧嘩となり、双方が暴力行為に及んで、前記各傷害を負ったものであり、両名は、右暴言・暴行の間職務を放棄した。
債権者のした暴言・暴力行為及び職務の放棄は、就業規則五条(従業員は労働時間中私用のため勤務場所を離れてはならない)、一〇条一〇号(事業関係者又は他の従業員に暴行脅迫を加え又はその業務を妨害してはならない)に違反し、前記六一条一一号、一五号に該当するものと認められる。
そして、債権者が、暴言・暴力行為につき、債務者に対し謝罪せず、清水部長からの事情聴取に対し自分の言い分を強く主張し、始末書を提出しなかったことは前記認定のとおりである。
以上によれば、本件暴言・暴行について、債権者にも多分に非の存することは明らかであり、債権者のその後の対応にも誠実さに欠ける点があったことは否めない。
しかしながら、債権者と竹内とはかねてから対立関係にあったものの、本件暴言・暴行は偶発的なものであること、暴言・暴力行為により債権者が職務を放棄したのは、時間的にはわずかなものであること、債権者と竹内の債務者内における身分の相違や竹内は本件暴言・暴行につき、債務者に対し謝罪していることなどを考慮にいれても、両者に対する処分は均衡を失していると考えられること、事情聴取に対する債権者の前記対応や始末書の提出を拒否したことが就業規則六一条一一号にいう「職務上の指示命令に不当に従わないとき」に該当するかどうか疑問であり、雇用関係の継続に困難を生ぜしめる程度に重大なものとは考えられないこと、債権者の平常の勤務成績は、従業員の平均より上位にあること(この事実は、<証拠略>により認める)などを考慮すると、債権者を解雇することは酷にすぎ、合理的裁量の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
したがって、本件解雇は、解雇権の濫用にあたるものというべく、その余の点について判断するまでもなく無効というべきである。
四 本件解雇処分前三ケ月の債権者の平均賃金が月額金一七万七、四三八円で、その支給日は毎月二六日であったことは当事者間に争いがない。
(証拠略)によれば、債権者には、母、妻及び二人の子供があり、債権者ら家族は、債権者が債務者から受領する賃金と妻の内職による収入(月額金三万ないし四万円)により生計を維持しており、他に収益をあげ得る資産もないことが一応認められるから、本案判決確定に至るまで債権者が債務者の従業員たる地位にあることを仮に定めるとともに、債務者から債権者に対し前記賃金が仮に支払われるべき必要性がある。
五 以上の次第で、債権者の本件仮処分申請は理由があるから、事案に照らし、保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浜崎浩一)